ブラックボックス

'05/11/23

ブラックボックス化した構造解析法　目次

吉見吉昭

　昔の鉱石ラジオには少ない部品しかなく，それぞれの機能がわかっていましたので，人間が道具を使うという主従関係がはっきりしており，故障の診断・修理も簡単にできましたが，最近のラジオでは，すべてを処理する半導体は中身が見えない“ブラックボックス”になっていて，どちらが主人公かがわからなくなっています。

　ラジオに限らず，われわれの身の回りはブラックボックスで満ち溢れていますが，構造解析も例外ではありません。解析ソフトに数値を入力すれば，パソコンが計算してくれて，答えが出てくるようになっています。曲げ変形だけを考えればよいような骨組みの解析なら，大きな問題はないのかもしれませんが，パネルゾーンなど，材料力学的取扱いが必要な場面では，自分で誘導できない公式を使う技術者は信用できない，と私は思います。誘導の過程でどのような仮定条件が必要かを把握していないので，適用範囲を外れて公式を乱用する恐れがあるからです。急がば回れと言いますが，連続体の力学では，任意の微小要素について

ニュートンの運動法則（静的条件では力とモーメントの釣合い）
連続条件（流体の場合は質量保存則）
材料特性（線形弾性体ではヤング係数とポアソン比）

を満足する式を立て，境界条件を満足する解を得ればよいのです。方程式を解く段階でコンピューターを利用することは構いませんが，力学的考察に関してはブラックボックスに任せないことが肝要です。

　第２パラグラフに「骨組みの解析なら，大きな問題はないのかもしれませんが」と書きましたが，構造計算書の偽造という，とんでもない事件が発生しました。小さい地震力に対するアウトプットと，正規の地震力のインプット部分をモンタージュしたようです。コンピュータープログラムのブラックボックス性を悪用した極端な例でしょう。これが氷山の一角でないことを祈るばかりです。