昨今は自分でゴルフをする体力がなくなりましたので，もっぱらテレビのプロゴルフを観戦しています。アメリカで行なわれるプロゴルフの解説は，往年の名選手が担当しているようで，それが当然のように思えます。わが国ではアマチュアがプロゴルフの解説をすることがありますが，アマのくせにプロの技術を云々するのは身のほど知らずというほかありません。

　アメリカで長くプレーした男性プロゴルファーが，「天候が穏やかならハイスコアになるし，荒れたらロースコアになる。」と真逆の表現を使っていました。その他のゴルフの解説者もよく言う「ビッグスコア」，「スコアアップ」，「ハイスコア」，「スコアを伸ばす」は，英語に直訳すると全く逆になるので要注意です。つまり，ゴルフではスコアが少ないほど良いので，low handicap（低いハンデ）などと，低いが良い意味になります。Tee shots need to stay away from trouble to avoid big scores.（大叩きを防ぐにはティーショットのトラブルを避けるべきです。）という文脈では，ビッグスコア＝大叩き になるので大変です。ただし，ローアマ（low amateur）だけは日本語でも正しい言い方になっているようです。また宮里藍はさすがに良い意味でロースコアと言っていました。これは解説とは無関係なあら捜しですが，日本人のシニアゴルファーの胸に，図のように Pat Is Money と大きく書いてありました。 Drive for show, putt for dough. （ドライバーショットは見世物用，パットは金儲け用） という格言をもじったのでしょうが，ゴルフのパットは putt であって pat ではありません（dough は money の俗語）。pat は「軽く叩く」という意味です（動詞または名詞）。

　ところで，外国人のゴルファーが日本に来て，サービス精神を発揮して，いいことを言ってくれたのに，英語自慢のゴルフプロデューサーがそれを理解できずに視聴者に伝わらないことがありました。有能な通訳を使わなかったことは，視聴者に対して失礼なことだと思いました。このゴルフプロデューサーの例二つとゴルフ用語を知らない通訳の例一つを示します。

• 伝説的な名ゴルファーであったジーン・サラゼンが，ゴルフプロデューサーに関係のあるトーナメントのゲストとして来日したときのことです。あるベテランゴルファーが健闘して，首位に3打差まで詰め寄ったことがあります。終盤のパー3のホールで，ティーショットをしようとすると，サラゼンは，「ここで一発ホールインワンが出れば面白くなるね。」と言いましたが，.ゴルフプロデューサーは相槌も打ちませんでした。
• 岡本綾子の全盛時代の話ですが，彼女と優勝を争っていたゲディースというアメリカ人選手が，最終日に，「今日は私は敵役（villain）だから黒装束で決めたのよ。」と言ったことが，ゴルフプロデューサーには理解できなかったらしく，通訳しませんでした。地元の日本のギャラリーが岡本を応援するのは当然であることを認めて，カッコいいことを言ってくれたのに，せっかくのサービス精神が無駄になって残念でした。
• 外国人のゴルファーが「今日は up-and-down が結構多かったので助かった。」と言っているのを，通訳が up-and-down＝寄せワンということが重要な情報であったのに，それを知らないまま無視してしまいました。専門語に対応できる通訳を探すのは難しいものですが、ゴルフも例外ではないようです。