高齢者を標的にした振込め詐欺がますます巧妙になって，特殊詐欺と言われるようになったようです。その他にも暗いニュースが多くてテレビを観るのもつらいときがありますが，冷静に観察すると，一般の日本人は正直だと言えると思います。

　かなり前の話ですが，米国シビルエンジニアリング学会（American Society of Civil Engineers）の会長以下の幹部が東京を訪れたことがあります。この学会の日本支部が応対したのですが，土木学会だけではカバーしきれない建築構造・建築施工などの分野を包含する日本建築学会に彼等を案内しました。ホテルからタクシーで港区にある建築会館に行きましたが，タクシーを降りるときに，トランクに入れたブリーフケースを出すことを忘れていました。気がついたときはタクシーが行ってしまった後でしたが，幸い私はタクシー会社のロゴを覚えていましたので，心配しなくてもすぐ戻ってくる，と言いました。彼等は信じられない様子でしたが，建築学会からタクシー会社に電話を入れましたところ，すぐに連絡がついて，10分もしないうちに運転手がみんなのブリーフケースを持ってきました。それだけでなく，彼は最敬礼して，自分が気付かなかったことを詫びたのです。これにはアメリカ人たちは大きな感銘を受けたようで，ニューヨークでは考えられない，と言っていました。

　そのほか，中元・歳暮の繁忙期には，その気になれば，誰も気づかないように間引きして猫糞することは可能だと思いますが，宅配便は確実に届きます。警察官が賄賂をとって交通違反を見逃すことも，ほとんど考えられません。袖の下が当たり前の国が少なくないことを考えれば，石田梅岩まで遡るかどうかわかりませんが，誇るに足るわが国の庶民道徳だと思います。