サンフランシスコ港の静岡丸

高層ビルの無い 50年前のサンフランシスコ

日付変更線通過記念パーティー3)

　1952年8月にシアトル〜横浜間，1953年8月に横浜〜サンフランシスコ間，1958年8月にサンフランシスコ〜横浜間と，合計3回貨物船で太平洋を横断しました¹⁾。いずれも直航便ですから大圏航路だったはずです。貨物船には12人以下の旅客を乗せることが許されていて，プールなどの設備について豪華客船と比較することは無理ですが，居室と食事に関しては客船の一等船客とほぼ同等の待遇を受ける上に，多くの荷物が運べて運賃が安いことが取り得です。1953年のときの運賃は5万円ぐらいだったと思います。乗客は船長などの高級船員と食事を共にし，デッキで輪投げなどのゲームを楽しむことが出来ます。船員のほとんど全員が発展途上国出身である現在と違って，当時の日本の貨物船では船員は全員日本人だったと思います。

　シアトルから乗った船は American Mail Line 会社の Oregon Mail という名前の貨物船でしたが，非番の船員が盛んにポーカーをやっていました。もちろん賭けゲームで，毎回新品のトランプを使っていました。日本人乗客は私だけだったように思います。

　横浜から乗った山下汽船の船では朝から晩まで無線技師と碁を打ちました。プロ棋士を目指したことがあるというだけあって滅法強かったので，私もかなり勉強になりました。

　サンフランシスコからの船旅はたまたま結婚1周年航海ということになりました。シカゴから2泊3日の寝台列車の旅で約3千キロ離れたサンフランシスコに着きますと，沖仲士のストライキのために足止めを食ったので，チャイナタウンの安宿で3日ほど待機しました。船は2月前に竣工したばかりの日本郵船の静岡丸で，処女航海の帰途だったそうです²⁾。このときはアメリカ人も何人か乗っていました。写真はすべてこの時のものです。

　セキュリティーゲートの手前で見送り人とあっけなく別れる飛行機と違って，船はお互いに顔が見える時間が長いので送り迎えに情緒があります。また，あっという間に異国に着くジェット機と違って，船旅では当然時差ボケ（jet lag）は無く，環境の違う場所に着くまでに心身の準備が整うような気がします。

1. 実は1946年に台湾から引き揚げた時も貨物船に乗りましたが，この時は船倉で雑魚寝させられる貨物並みの扱いでした。
2. ネットで調べますと，静岡丸は9,370トン，20.7ノットで，1978年にシンガポールの会社に売却された後，1982年にボンベイで解体されたそうです。貨物船の命は儚いものです。
3. 1950年代には旅客機の中でさえ，日付変更線通過のとき記念品が配られました。