私の世代では，ビジネスレターでは名前の前にミスターをつけるのが常識でしたが，近年は，封筒の宛名には Yoshiaki Yoshimi，手紙の冒頭には Dear Yoshiaki (Yoshimi) のように，日本人の感覚では「呼び捨て」をしても平気のようです。一つの理由として考えられるのは，英語圏以外の人との交信が増えて，名前を見ただけで性別が分らないケースが多くなったので，間違えるよりは何もつけないほうがましだということかもしれません。彦（hiko）で終わる名前の男性が ko で終わる名前は女性と思いこんだ，なまじ日本のことを知っている外人から Miss をつけた手紙を貰ったそうです。また，神主の息子さんの繁麿（しげまろ）という方が英国人から受け取った手紙に，貴族を意味する Lord がつけられていたそうです。近衛文麿公爵のように名前が麿で終わる華族（貴族）がいたことは確かですが，例外があることを知らなかったのでしょう。（わが国の華族制度は，1947年の新憲法施行とともに廃止されました。）。性別の分る写真入り記事の場合でも，委員会メンバーのリストで，博士（Dr.）と教授（Professor）以外には Mr. を省略した例を見たことがあります。それ以外では，上院議員（Senator），将軍（General）などの敬称は省かないことになっているようです。ちなみに，直接呼びかける場合は，ミスターの後にはフルネームでなく，姓だけを言うのが普通で，ミスターの後にファーストネームだけを使うことはありません。（例外については Mr. - Wikipeia を参照してください。）また，男性の議長（委員長）に呼びかけるときは Mr. Chairman，男性の大統領に呼びかけるときは Mr. President と言います。（もしヒラリー・クリントンが大統領になれば Madam President と呼ばれることになるでしょう。）また，映画の題名になった Mr. Roberts の Mr. は米国海軍の士官（主として下級）に呼びかけるタイトルで，your Mister という場合の Mister は夫（おっと）の意味です。

　メディアの一部で，ブッシュ前大統領が北朝鮮のキム・ジョンイル（金正日）総書記をミスターづけで呼んだことを話題にしたことがあります。私もテレビニュースでブッシュ大統領がノ・ムヒョン元韓国大統領に向かって，キム・ジョンイル総書記のことを Mr. Kim Jong Il と言ったのを聞きました。ミスターが必ずしも敬称でない例としては，警察の記者会見などで容疑者の姓にミスターをつけることがあります。「〇〇と称する男」というふうに性別を明らかにするためかもしれません。ちなみに，Newsweek 誌に出た靖国神社関連の記事の表題は The Ghost of Mr. Tojo となっていました。

　その道の代表者などを意味するくだけた用法は，Mr. Big＝ドン，Mr. Right＝理想の夫，Mr. Clean＝正直で常に法律を守る男，などですが，日本語でも，ミスタージャイアンツ＝長嶋茂雄のような使い方があります。

　細かいことですが，英国式のスペルではドットをつけず，Mr と書くようです。

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